自社ブランドのネクタイ、スーツの製造・販売を行う”株式会社笏本縫製”の代表取締役である笏本達宏さんにインタビューをさせていただきました。
現在では、開始2時間で予約完売した自社ブランド「つやまスーツ」のオーダー会にも精力的に取り組んでいる笏本さん。
ずっと不思議だった。いつも電話で注文くださるお客様。なんでネットじゃないんだろう?と思ってた。デパートの催し場でお会いしたときに理由がわかった。白い杖をつきサポートをされながら歩いてる。視覚に障害がある方だった。思わず「なんでいつもウチを選んでくださるんですか?」と聞いたところ…
— しゃく (@shakunone) October 3, 2022
事業をはじめたきっかけや、商品に対する想い、もし別の仕事をしているとしたら?など、さまざまな質問にお答えいただきました。
株式会社笏本縫製の創業と事業継承エピソード
笏本縫製は1968年に祖母がシャツのボタンの取り付けなどを行う、内職加工業として創業しました。
初めは近所の主婦達の内職作業場のような形でしたが、技術の向上に合わせて試行錯誤を続けていき、婦人子供服の製造へ、経営者も祖母から母へと移っていきました。
私自身は、幼い頃から忙しく働く母の姿を見ていたのもあり、「家業は継ぎたくない」と考えて高校卒業後に美容師の道へ進みました。
そんな中、体調を崩した母に代わり仕事を手伝った際、事業承継の転機が訪れました。
工夫が詰まった工場の雰囲気や、熟練の職人の技術に触れ、「この技術を絶やしてはいけない、未来につなげたい」と感じ、美容師を辞めて家業に飛び込みました。
作り手を大切にしたいという想いからネクタイブランドの立ち上げへ
海外生産への移行による縫製の仕事の減少や、国内の価格競争の激化によって、一時は会社の閉業も考えていました。
「技術を絶やしたくない」という私自身や先代の想いもあり、ネクタイ事業に舵を切りました。
下請けからの脱却
ネクタイ事業に舵を切ったとはいえ、主な業務は大手メーカーのOEM(下請け)が中心でした。
下請けでは、作った商品が市場に出るまでにいくつも段階を経るため、ユーザーの声が私達に届くことはありません。
作るのであれば「直接販売に立ち、ユーザーの声を聞きたい」という思いもあり、2015年にネクタイブランド「笏の音-SHAKUNONE-」を立ち上げました。
作り手の幸せが価値ある商品に繋がる
退職する職人さん達に話を聞くと「稼げない」という理由で引退している人が多いことに気付きました。
せっかく高い技術があっても、稼げなければやる意味がないと思うのは当然です。
お客様に喜んでいただける価値ある商品を作るには、技術ある職人さんが幸せでいられる環境をつくらなければなりません。
自社のブランドを育て仕事自体に価値を生み出すことが、職人さん達の幸せへ、ひいては商品の価値へ繋がるという想いでネクタイを作り続けています。
スーツのオーダー会を始めた経緯
自社ブランドとして育ててきたネクタイブランドですが、お客様から「SHAKUNONEに合うスーツ」について聞かれ、答えられなかったことがきっかけです。
スーツは専門性が高く、自社のみでの開発は難しかったため岡山県津山市にあるスーツ縫製工業と連携し「つやまスーツ」として販売を開始しました。
第一回オーダー会では開始2時間で予約枠が完売
津山市で第一回オーダー会を開催したいと予約を募ったところ全国から予約を頂き、開始からわずか2時間で予約枠は完売という結果が出ました。
ネクタイとスーツは合わせて使うことが多いにも関わらず、スーツ屋さんがネクタイも作るのが一般的です。
一方でネクタイ屋さんでスーツを作っている会社は他に無く、当社にしか出来ない価値提供だと考え、力を入れて取り組んでいます。
オーダー会はお客様と交流できる貴重な場
最初にネクタイブランドを立ち上げた時から今日に至るまで、「お客様と直接顔を合わせて販売したい」という思いが常にあります。
お客様との交流を通して、ニーズに寄り添いながら、少しでも良いものを作りたいと常に考えており、オーダー会はお客様と顔を合わせられる貴重な機会の一つです。
自分たちが良いと思う物とお客様が良いと思う物のミスマッチの確認の場、楽器でいうチューニングのような、より良い価値提供をするために必要な場であるとも捉えています。
オーダー会は今後も定期的に開催し、沢山のお客様と交流し、少しでも良いものを提供できるように取り組んでいきたいと考えています。
もし別の仕事をしていたとしたら?
正直な所、別の道のことはほとんど考えていません。
考える余裕が無い部分もありますが、事業承継なり結婚なり「人生の要所要所での決断を正解にしていきたい」という考えが根本にあるからです。
自分自身の思いもありますが、例えば、先代の祖母や母、社員の方々には「跡を継いでくれてよかった」と思ってもらいたいですし、妻には「結婚してよかった」と感じてもらいたいとも思っています。
ここまで育ててくれて、ついてきてくれたことへの恩返しもしたいので、失敗したとだけは感じさせたくないという思いもあり、他のことは考えていません。
もし仮に別の仕事をしていたとしても、美容師は続けていなかったと思います。
家業かどうかは別にして、ものづくりに関わる仕事をしている気がしますね。
1回ものづくりの魅力を知ってしまうと、何かしらの形で物作りをしたいという気持ちが強くなり、他の仕事は考えられなくなりました。
先代達が頑張って自分自身を育ててくれたのも「ものづくり」です。
お客様への価値提供と従業員の幸せを同時に実現できるのも「ものづくり」ならではだと考えています。
今後も自社ブランドSHAKUNONEを育てていきたい
笏本縫製は経営理念に「お客様に喜びを、作り手に目一杯の幸せを」を掲げています。
難しいことや複雑なことを考えるのではなく、シンプルにお客様と作り手の気持ちに沿うことで、他にはない価値提供ができると考えています。
経営理念に沿ったうえで、可能なことはなんでもやる、できないことは一切しないという線引をして日々取り組んでいます。
お客様の「欲しい!」を形に、作り手の「やりたい!」を形にした商品を提供できるのはSHAKUNONEの強みです。
今後はもっと多くの方に私達を知っていただき、SHAKUNONEだから使いたいと思ってもらえるようなブランドにしていきたいですね。
さいごに
”株式会社笏本縫製”の想いやお客様との交流を通して、全力で走り続ける笏本達宏さん。
経営理念の「お客様に喜びを、作り手に目一杯の幸せを」という想いは、自社ブランドのネクタイやつやまスーツのオーダー会を通して、ますます広がっていくでしょう。
この度はインタビューにお答えいただきありがとうございました。今後のご活躍を応援しています!
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